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無防備なきみに恋をする
第2章 眠る君に秘密の愛を
時計の針が23時を回ると、屋敷の者は大体その日の仕事を終えて自室に戻るか自宅へ帰る為 屋敷はしんと静まり返る。
つい先日連休が明けたばかりの5月の夜はまだ寒く開いた窓から冷たい風が流れ込んで頬を撫ぜた。
眠る屋敷の角部屋で電気を煌々と灯し、佐伯はカタカタとキーボードを弾きながらパソコンに向かっていた。
パソコンの画面は電子メール。
現在視察の為にフランスへ仕事に向かっている、冬華のご両親…もとい、この屋敷の旦那様と付き添いの奥様からの近況報告だった。
と言うよりも、冬華は元気ですか?という追伸の方が本文なのかもしれないが。
「親馬鹿だ…」
写真を添付するようにという文面を見ては佐伯は口元に手を当てて笑った。
この親馬鹿の夫妻が海外へ赴任する度、数日おきに冬華の身を案じるメールが届く。その都度、写真を添付させられるので佐伯のパソコンの中には不本意ながら隠し撮りした冬華の写真が蓄積している。
一見ストーカーの様だが、これも仕事である。
物憂げに窓の外を見ながらティーカップを啜る姿や、友人と談笑しながら大学から出てくる姿、中庭で本を読みながら居眠りしている姿。マウスを転がしながら添付する写真を選んでいるとヴヴと携帯が震えた。
「佐伯?」
「はい。」
声の主は今、目の前のモニターに写っている彼女。静止画で清楚で美しい笑みを浮かべている冬華と、先程の車の中で善がる彼女の姿が重なり口角が上がる。
「眠れないのよ。紅茶とお菓子を持ってきて」
「…はい。只今」
「何?声が笑ってるわよ」
「気の所為ですよ」
"なら、早めに宜しく。二人分よ" と一方的に電話が切られ、佐伯はメールを下書きに保存し、パソコンの電源を落とした。
全く、人使いの荒いお嬢様である。