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行こうぜ、相棒
第7章 No One Is To Blame



そして取り皿に横たわるロールキャベツに箸を伸ばした。やわらかに切れるそれを半分の大きさにした。取り皿に、キャベツのなかの肉汁がこぼれ、金色の泡が広がった。

慌てて会話を進めなくともよいという雰囲気は、先生の醸(かも)す大人の余裕からくるものだろう。エリはそれを嬉しく思った。

ロールキャベツを口に含む。
さまざまな素材が複雑に混じりあって調和した、奥行きの深い味わい。その調和に、かすかなナツメグの刺激を感じる。嬉しい気持ちがさらに高まる。

「おいしい」
と、素直な言葉をエリは口にした。
「良かった。それはこの店の二番目のおすすめだからね」
先生の声にも笑みがこもる。
「一番のおすすめは何ですか?」
「きみの妹さんが大好きだったものだよ」
そう言って先生は、バァテンダーに頷いた。
少しも話を聞いていない風情のバァテンダーは、たが何も言わずに牛すじを取り皿によそってくれた。
余計な口をきかず、エリもまた黙ってそれを口にする。
さっぱりとした出汁で煮込まれた牛すじは、とろけるように柔らかく芯まで味が染みている。牛自体のコクのある味わいの奥に、かすかに海の香りをかぐ。
それはカツオや昆布といった普段の出汁の奥に潜む、隠し味だ。
「もしかして、貝出汁をとっていらっしゃいますか?」
エリは気になって、バァテンダーに尋ねる。
端正な顔つきのバァテンダーは、小さく微笑むと眉をあげ、肯定とも否定ともとれる表情を作った。申し訳ございませんが、そこは企業秘密とさせてくださいませ、と慇懃なお断りの笑顔を作ってみせた。エリもそれを微笑で受け止めた。


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