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花菱落つ
第2章 真田源五郎
「どうにも信じ難いが、お前が男なのはわかった。それならばなぜ『ののう』になった」

 凪は伏し目がちに川中島で父に死なれてからこれまでのことを、源五郎に語った。

「そうか、川中島か……」

 源五郎の初陣となった三年前の川中島の戦いは、敵味方ともに多数の死傷者を出した大きな戦いだった。武田方も信玄の弟、武田信繁や軍師山本勘助をはじめ、多くの者を失っていた。源五郎も初めての戦で、本当の戦という物の酷さを目の当たりにしたのだった。

「わかった。お前がすべてを覚悟の上で『ののう』の道をゆくなら俺はもう何も言わない。だが、お前が女ならよかったのに」

 さもなければ、凪が侍のままだったなら。妻にはできなくとも、侍ならば肩を並べ共に戦うことができたかもしれない。

「ありがとうございます」

 凪は美少女にしか見えない顔で、くすりと笑ったのだった。
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