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花菱落つ
第4章 義信
 シャラン、と、凪の右手にある鈴が鳴った。楽の音に合わせ、十二人の巫女たちが舞台の急拵えの上でゆったりと舞う。二人ずつ向かい合って歩を進め、互いに右回りに体を回転させるのは、舞で太極(万物の根源)を表しているのだとされている。

「……美しいな」

 義信は呟いた。府中八幡神社では上杉攻めの戦勝祈願のための神事が行われていた。
 正確に言えば上杉の所領を切り取ることを目的とした戦ではない。謙信が南下の様子を見せているため、牽制のための出陣である。もちろんあわよくば未だ上杉の手中にある北信濃をいただいてしまおうという思惑も無きにしもあらずだが、信玄の意欲はその程度のものだ。

 だがどのような目的であれ、戦には違いない。そのため府中八幡宮では神事が執り行われ、現在巫女たちによる奉納舞が舞われているのだ。先日境内で出会った巫女の凪も、舞い手として参加している。烏帽子を被り、緋袴水干姿に千早を重ねた姿からは、普段の白衣姿とは違った凛々しさが感じられる。

「ですがあの凪と申す巫女……只者ではないように見受けられます。少し気をつけた方がよろしいかと思われます」

 つい先程まで隣で相好を崩していた飯富が、厳しい顔で凪を見つめていた。

「何故だ。あの年にしてはなかなかに上手な舞い手ではないか」
「だからでございます。あの巫女は明らかに他の舞い手よりも上手い。『舞は武に通ず』。有名な言葉です。あの者はおそらく何らかの武術を嗜んでいるに違いありません。もしかしたら望月千代女の『ののう』やも知れませぬぞ」

 千代女の「ののう」のことは義信も知っていた。「ののう」であれば、巫女としてだけでなく、甲賀の忍術も入念に仕込まれているはず。信玄は千代女と懇ろだという噂がある。千代女の「ののう」が信玄の手の者として送り込まれている可能性を虎昌は懸念していた。
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