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花菱落つ
第4章 義信
 季節は梅雨に入った。小雨の降る中、小姓が社に信玄からの供物を届けに来た。

「お気をつけて」
「ありがとうございます」

 凪を見て顔を赤らめ、うつむきがちに中曲輪の方角に戻ってゆく小姓の後ろ姿を、凪は嘆息と共に視送った。

「凪」
「飯……」

 飯富様、と言いかけた凪の口は、虎昌の大きな掌で塞がれた。虎昌の掌は齢を重ねた勇猛な武人らしく、硬くざらざらとしていた。凪は社殿の陰までそのまま引っ張られ、ようやく虎昌の掌から解放された。

「あの者は誰だ」
「お館様のお小姓様にございます」
「何をしに来た」
「神事に使う供物をお届けにいらしたのです」
「そうか、やはりな」

 今日の虎昌は一人だった。館の方から歩いて来たのだが、小姓のことを凪に訊いてきたということから考えると、おそらく西曲輪からの帰りだろう。

「凪」
「はい」
「近いうちに、戦になるだろう」

 凪には心当たる節があった。最近、表面的には常と変わらない風を装ってはいるが、躑躅ヶ崎館全体にどことなくピリピリとした雰囲気が漂っていたからだ。腹心高坂も、密かに海津城から甲府にやって来て、何やら忙しそうにしている。この時期に高坂が川中島に近い海津を留守にするのは、只事ではない。

「供物は戦勝祈願の神事に使う物だと思って間違いない」
「はい」
「それなのになぜ、お館様は義信様にお伝えにならぬのだ……」

 凪は小首を傾げた。この虎昌の言動も、信玄に報告した方がいいだろう。
 その時、凪を探す声が社殿から聞こえた。凪は虎昌から社殿へ首を巡らせた。

「あ、いや一人言だ。気にするな。お前のことを呼んでいる。早く行け」
「失礼いたします」

 凪からの報告を受けた信玄は次の日の午後、重臣たちと義信に、上杉との戦に臨むことを正式に伝えたのだった。
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