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第5章 裏切り

　――油断をしていた。

　義信が気を付けなければいけないのは、父信玄だけではなかった。
　身内以上に、赤の他人である家臣にも用心しなければならなかったのだ。

　まさか傅である虎昌の弟、飯富三郎兵衛尉が義信を裏切ろうとは、さすがに思いもよらなかった。三郎兵衛尉は川中島で窮地に陥った義信を救うため、一騎討ちを途中で放り出してまで駆けつけてくれた忠義者だったからだ。

　虎昌ら近しい家臣は信玄に捕らえられ、義信の味方は、もう誰もいなくなってしまった――。