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第35章 嘘

リナはあくびをしながら、薄めたスープと普通のミルクを美優の朝食に食べさせているところで俺に

『コーヒーなら湧いてるから自分で入れてね。』

と言っていた。

お前も要るか？

そう聞こうとした俺の携帯端末が鳴るから俺は自分の分のコーヒーを飲みながら

『どうした？』

と携帯に向かって聞いていた。相手は五十嵐だった。五十嵐は

『休暇中、悪いんだが篠原連れてちょっと出て来てくれや。』

と言って来た。俺は五十嵐に

『わかった。』

とだけ答えてからリナに

『悪い。緊急の仕事が入った。』

と嘘をついて家を出ていた。リナには言ってない事は山ほどある。だけどモロに嘘をついたのは初めてだった。元々、俺は嘘が下手で嘘はすぐにバレるから俺はリナに不安を与えるだけになる嘘は嫌いだった。

だけど今は

ごめんな…

という気持ちだけで車を出し、宗司に連絡を入れて五十嵐との待ち合わせ場所に宗司を連れて向かっていた。

五十嵐は俺の車に乗り込み

『俺が言う場所に向かえ。』

とだけ言って来た。五十嵐が指定した場所はここから車で１時間半はかかる別の街だった。俺が

『緊急が来たらマズくないか？』

と聞いても五十嵐は

『そこは俺が誤魔化してやる。』

と平気な顔で言うだけだから俺は五十嵐がいう場所へと車を飛ばしていた。道中、五十嵐は市ノ瀬についてわかった事を俺と宗司に報告していた。

わかったのは、市ノ瀬が大戦前には国の研究施設を辞めているという事、市ノ瀬には結婚記録はないが娘が居て、その娘も大戦前に事故で死亡しているという事、ただ五十嵐は厳つい顔を更に厳つくしてから

『その娘の名が…、市ノ瀬 理菜だ。』

と言っていた。俺と宗司はやはりリナとの関係がある人物だと市ノ瀬に確信をしていた。

五十嵐が指定した場所に着き、車を降りた五十嵐は俺に

『ここがその市ノ瀬の自宅だ。』

と小さな民家の前に立っていた。

表札は確かに市ノ瀬とあり、大きさは俺の家と変わらないくらいの小さな家だった。