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第14章 修羅道

『真理子さん…ねぇってば…』

目の前でピクリとも動かない真理子さん。

『…服着なよ…いきなりどうしたの？』

真理子さんがゆっくりと頭を動かす。
後頭部が右側へと回り、左側から睫毛と鼻先が見えた。

『ノブ…』

真理子さんがようやく音を発した。
震えた声だった。

もう、彼女は僕の知らない人だ。

『愛してないって言って？』

無邪気な彼女はどこへ行った？

『私なんて嫌いになって？』

つい昨日の朝、サーフのハンドルを握っていた彼女はどこへ行った？

『私を見捨てて？』

荒岩家からの電話に困惑しながら対応していた彼女はどこへ行った？

『私なんか…』

打ち上げでベロベロになってアシスタントの女の子に抱えられながら帰ってきて、玄関に倒れた込んでいた彼女はどこへ行った？

『ノブ…嫌いだって言って？』

新しくスタートした連載に四苦八苦して苛立っていた彼女はどこへ行った？

『…私は…』

"ね、広いでしょ？家賃はちょっと高めだけどね"と、マンションを借りてはしゃいでいた彼女はどこへ行った？

『…鬼になるんだから』

一緒に住みたい、一緒にいたい、ずっと一緒にいたい、そう言っていた彼女はどこへ行った？