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いつくしみ深き
第2章 番外編《楽園にて》
「僕が死んだら、お葬式には『In Paradisum』を流して欲しいな」
「いいぜ。どんな曲かは知らないけどな」
「ふふ、ありがとう」

 そう言って響はいつもみたいに綺麗に笑った。他愛のない世間話だと、そのとき俺は思っていた。

 だけど響はそのあとすぐに倒れ、俺を置いて逝ってしまった。病室に遺されていたのは一枚のCD。「In Paradisum」が含まれている、フォーレの《Requiem》だった。響はあのときすでに自分の死期を悟っていたのだと、俺は知った。

 生前の希望通り、葬式で控え目に流された「In Paradisum」。どこまでも清らかで透き通った少年合唱は、まるであいつのような曲だった。

 響と過ごした日々が、走馬灯のように思い出される。あいつはいつも夢みたいに綺麗で、夢みたいに優しかった。

「俺が死んだら葬式では『In Paradisum』を流してくれよな」
「いいぜ。どんな曲かは知らないけどな」
「サンキュ」

 響が逝って、十年が過ぎた。

 俺は最近友人たちに、そう頼んでいる。同じ曲で送られれば、あいつと同じ場所へ行けるような気がするからだ。

 ――楽園に。
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