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貴方だけに溺れたい
第1章  木漏れ日


[プロローグ]


雷鳴が鳴り響いていた。天地を揺るがすような重たい轟音。明滅する積乱雲に覆われた空からは大粒の雨が降り注ぎ、強風に煽られながら視界を覆い、閉ざしてゆく。いつ終わるかも分からないような、激しい嵐の中だった。

"永遠に続けばいい"

熱気で曇る窓ガラスにぶつかっては弾け、滲むように流れていく水滴を視界の隅に捉えながら、葵はこのひとときの永遠を願っていた。

「あっ…あ……」
「ッ……葵……」

豪雨の中に停めた白のSUVの車内。3列目のシートを取り外したその狭い空間で、葵は森川の熱い肉体に組み敷かれながら欲望の渦に呑み込まれていた。
唯一身に付けたシフォンのロングスカートは腰の位置まで捲り上げられ、露に開かれた足は情動的な律動を繰り返す彼の腰を挟んだまま艶かしくに揺れている。

森川が身に付けているものは何も無かった。
しかし青白い閃光に照らされたその肉体は逞しく引き締まり、むせかえるような熱気と汗にまみれながら魅惑的な陰影を浮き上がらせている。

彼は葵の紅潮した肌を貪り、揺れる乳房を揉みしだきながら、飢えた獣のようにその固く尖った先端にしゃぶりつく。抽送は彼の昂りによって深まり、葵は力強く突き上げられる快感に悲鳴のような嬌声をあげ続けた。
呼吸を荒げ、汗で濡れた彼の髪をかき乱しながら、反復する腰に足を絡める。顔を上げた彼の野性的な目を見つめ、自分からその唇を吸い、舌を絡めながら首に腕を回す。

森川は葵の接吻(くちづけ)に応えるように彼女を抱き締め、支配的な荒々しさで彼女を求めた。
密着した肌は互いの汗と愛液が混ざり合い、何処に触れてもぬるぬると滑り、濡れていた。激しく重ね合う唇には切迫した喘ぎ声と息づかいが混ざり、繋がり合った場所からは、水気を帯びた肉のぶつかり合う音が轟音と重なり響き続ける。

"溺れてしまいたい"

葵は森川の背中をかき抱き、渦巻くように流れ続ける水滴の群れを視界に捉えながら思った。このまま繋がり合い、劣情にまみれながら、誰もいない水の底へと沈んでいきたい。

夫も日常も、自分を取り巻く忌々しい柵を全て棄てて、ただ彼の事だけを思い、彼だけを感じながら溺れてしまいたいと__。








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