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貴方だけに溺れたい
第6章 フレイヤの化身
"醜い。まるで禿鷹のようだ……"
鏡の前に立った呂季は、自分の裸体を見ながらそう貶す。
身長が伸び、肩や腕はごつごつと骨張り、上半身は逆三角形の男らしい骨格に近付いていた。
端正な顔立ちには可愛らしさが薄れ、薄暗い照明に照らされたそこにあるのは、妖しげな陰影を浮かべた彫刻のような顔。
14歳の思春期の間に、そこまで変わるものなの!?
作中の呂季の成長ぶりに疑問を感じてはみたものの、"男性"としては恵まれた容姿である事に間違いは無いと思うのだ。
否、男としてはまだ貧弱な方か……。
その例として森川の胸板を思い浮かべるのは疚しいとも思うが、葵はそんな雑念を留めたまま、鏡の前で葛藤する呂季の苦悩を読み進めた。
呂季は特に、そのがっしりとした肩が気に入らなかった。
彼は自身を抱き締めるようにその肩を掴み、この数ヶ月の間に着られなくなった"ブラウス"を思い浮かべる。
呂季の定番の服装は、袖のゆったりとした柔らかなブラウスとタイトなズボン。
スタンドカラーのシャツに袴姿の書生スタイルが主流の時代に、なかなかのお洒落さんだとも思うが、呂季はその服装を"仕方なく"していたのだ。
最低限の主張だった。
本当はもっと華やかな、フリルの着いた服が着たい。
たっぷりとギャザーの入った女性的なファッションに魅力を感じていた。
しかし自分は"男"だから、女性の格好などするわけが無い。
けれど呂季の気持ちの根底には、スカートやドレスへの憧れがあり、その欲求を誤魔化す為に、彼は敢えて女性的なブラウスを着て満足しようとしていたのだ。
だから自分の"男らしい"骨格を見て失望したのだ。
もう、バルーン袖のブラウスを着ても、その姿はけして"女性的"では無いから……。
·············
「女装癖か……」
ナルシストでもあるな……。
葵は独りそう呟き、悩める呂季が薔薇園に向かうシーンで栞を挟んだ。
続きを読みたい気持ちはあっても、急激に押し寄せてきた睡魔にはもう勝てる自信が無い。
閉じた本を枕の下に入れ、タオルケットを肩まで引き上げると、葵は直ぐに眠りの中へと引き込まれていった。
しかし残念ながら、森川の存在を思い浮かべる余裕は無かった。
たぶん、呂季のインパクトが強過ぎたせいだろう……。