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貴方だけに溺れたい
第7章 貴方に逢いたい
結果、現在はこうして自分の選択を悔やみ、現状を変える勇気も持てずに途方に暮れている。
そんな中でこの公園を見付けた事は幸運だったけれど、あのシダレザクラを見上げていた時の自分を振り返ってみると、根本的には何も変わっていないようにも思える。
日常の苛立ちから逃げ、一時的な平穏の中でも現実を手離せずに混沌としている自分。
ただ目の前に広がるブナ林を眺め、遥か先を歩く過去の自分を思い浮かべながら、何も考えずに懐かしんでいるのと変わらない。
なぜ答えは出ているのに、行動力や決断する事に躊躇してしまうのだろう。
否、その原因だって分かっているのだ。
すべて自分の問題。
弱い自分が保身の為に、妥協という選択肢を手離せずにいるだけなのだ。
妥協……智之とのセックスなんて正にソレだろう。
断れば自分が不快な思いをして、更に不安にも似た葛藤が芽生えてしまうから妥協する。
相手の気分を察する事も出来ない智之の落胆なんて、本当はどうでもいい。
けれど心の奥底では、智之に対して媚びているような部分がある。
愛想を尽かされたく無い思いがあるから、言いなりになっているような気がするのだ。
何故なのか?
それは勿論、離婚や不仲を回避する為なんだろう。
智之の男性不妊に対しても、結局は都合の良い、妥協の言い訳にしているだけだ。
本心ではプライドだか面子を気にして治療をする事もしない智之に同情する必要なんて無いと思っている。
それなのに、自分はそんな智之を気遣っているふりをして、妥協の言い訳にしているのだ。
「はぁ……」
考えても考えても、思考の着地点は自分の弱さと狡さにたどり着いてしまう。
葵は溜め息を一つ吐くと再び林の奥へと目を凝らした。
果てしなく続く木々の間を、西日が突き抜けるようにして照らしている光景。
その中を10代の頃の自分が躊躇なく進んでいく後ろ姿を幾度となく想像していた。
そしてその頃の自分が現在の自分を知ったらどう思うのかと考える。
けれど改めて考える必要も無い。
"彼女"は間違い無く……。
「どうかしたのか?」
「…………」
急に視界が変わった。