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貴方だけに溺れたい
第8章 根底にあるもの
「や、悪い意味じゃ無くて……話して良かったと思って」
素直に嬉しい。
否、寧ろ猛烈に嬉しい。
言葉では説明しにくいけれど、その気持ちは顔にも出てしまっている。
ただ"微笑"にはならず、どうしてもニヤけた顔になってしまうのが恥ずかしく、葵は俯くかわりに両手で口元を隠した。
しかしそんな嬉しい気持ちは長くは続かない。
「そう?」と苦笑混じりに答えた森川は、目元を細めた葵の横顔を確かめた後、「よし」と話を締めるように両手を合わせた。
「じゃあ今日はこれくらいにしとくか」
勿論、時間が無い事ははじめから分かっていたが、がっかりしたのは言うまでもない。
ただある意味では幼くてくだらない。そんな話を聞いてくれた森川に感謝していたから葵は彼よりも先に立ち上がり、笑いながらお礼を言った。
以前の話を覚えていてくれた事も嬉しい。
「俺で良ければ、いくらでも協力するよ」
「協力?」
「喧嘩の相手にはなれる」
「それはちょっと、嫌だ」
「そう言われてもな。俺は今の君しか知らないし、イメージを押し付けられても迷惑でしょ?」
「うーん……まぁ、はい」
しかしどんなイメージを持っているのかは謎だけど、35歳に10代の女の子のイメージはイタ過ぎるし、その頃の自分に戻りたいとは思っていても、極端なものでは無い。
「悪いわけでは無いんだけどね。我が道をいくタイプ?」
「そうありたいなと思います」
「俺で練習すれば?友達と接するみたいなノリで、"超ヤバくねー?"なんて言ってるうちに、感覚を取り戻せるかもよ?」
「一応、年相応でいたいので」
「そうだね。根本的な話だもんね」
「そうです」
ただ淡々と話を続ける森川に対して、どもる事も無く応えている自分に驚いていた。
気のせいかもしれない。
けれど彼が自分の話を茶化す事も無く聞いてくれたせいでもあるのか、漠然とだが、今までよりも少し距離が縮まったような気がしていた。
こういう気持ちを何て呼ぶのだろう?
親しみとか安心感とか……?
だけど馴れ馴れしくは出来ないし、しかもこれ以上考えてしまえば、途端に切なくなってしまうような予感もする。
そしてたぶん、そんな思いに囚われてしまえば、再び消極的な自分に戻ってしまうだろう。