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貴方だけに溺れたい
第2章 田舎同居嫁
部屋に入った正男には、葵が出迎えてくれたように見えたのだろうか。
此方を見てからニコリと笑い、大きくに開いた扉の外に向かって「まぁ、どうどどうぞ」と愛想の良い声を掛けた。
なるほど、お客さんが一緒の時は、玄関もお行儀良く閉められるのか……。
納得しつつ、葵は正男の後から入室した人物に「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
秋山だった。
小柄で痩せ型。神経質そうな銀縁の眼鏡の風貌は"小学校の校長先生"というよりは、ドラマ等で見られるヒステリックな教頭先生みたいだと葵は密かに思っている。
秋山は葵を見ると、気難しそうな表情を緩める事無く無言のまま会釈だけを返す。
挨拶をしたところで無言なのは、いつもと同じなので気にする事も無かったが、更にその後から秋山の連れて来た"客"が続くという事は分かっていた。
そして、おそらくその"客"も、扉の傍に女性がいる事は、声や秋山の仕草で分かっていたのだろう。
「お邪魔します」
扉の陰からやや前屈みの姿勢で顔を見せた男は、直ぐに挨拶をしながら穏やかな笑顔を覗かせた。
しかし。
「いらっ……」
男の声に合わせて挨拶を返そうとした葵は、その顔を見た瞬間、応えるべき言葉を失っていた。
「…………」
どうして……?
頭の中にはその疑問符しか浮かんではいなかった。
状況なんて、把握する余裕も無い。
「…………」
そしてそれは間違いなく、その男__森川も一緒だったのだろう。
扉の傍の葵を見た直後には、その笑顔はもう消えていた。