この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
貴方だけに溺れたい
第3章 屈辱と悪夢
何故、君が此処にいる?
森川は眉間を寄せ、驚いた顔で見上げる葵を凝視した後、一瞬、彼女のエプロンに視線を向けた。
しかしお互いが予期せぬ再会に驚き、向き合っていたのはほんの数秒の間だけだった。
「智之!」
怒鳴るような正男の声にハッとした葵は、すぐに森川から目を逸らし、逃げるようにキッチンへと戻った。
動揺はおさまらず、心臓の鼓動までもが激しく脈打ち始める。
どうして彼がいるの?
秋山さんの"お客さん"て、森川さん?
混乱もしていた。手や足も小刻みに震えていた。
頭の中ではさまざまな疑問と、焦りにも似た不安が渦を巻いて膨らんでいくようで、葵は作業を再開する事も出来ずに再びリビングの方へと足を向けていた。
胸元で両手を握りしめながらキッチンの入り口から外を窺うと、閉じられた扉の前で正男と秋山、呼び寄せられた智之が森川と言葉を交わしながら挨拶をしている姿。
森川は此方に背を向けているから表情は見えないが、智之は笑いながら彼の肩に手を置き、会場に招くような仕草を見せている。
リビングの騒がしさのせいで、会話なんて全く聞こえない。
やがて4人は奥へと向かい、葵は自分の姿が見付からないうちに元の場所へと戻った。
しかし……たぶんそれは、森川と智之が話をする光景を見たからだろう。
葵は胸の奥で渦巻いていた"焦りにも似た不安"の理由に気付き、目の前が閉ざされたような絶望感に襲われた。
どうしょう。
彼は智之に、あの公園の事を話すだろうか?
そして私と、あの場所で会っていた事も……?