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貴方だけに溺れたい
第4章 秘密
「無理?」
疑問と同時に顔を上げていた。
しかしその言葉の意味は直ぐには把握出来ず、葵は思わず眉間を寄せながら彼を凝視した。
"無理をさせられてる"という意識は無い。
話すべき事だって強制されたわけでは無く、自分の意思で言ったのだから……。
対して森川は口元に微かな苦笑を浮かべつつ、困惑げに「この前」と続ける。
「今日会う約束をした事、後になって、だいぶ強引だったんじゃないかと思い始めてた」
「あぁ……え?」
何時の話かは分かったけれど、瞬時に思い返したところで森川が言うような"強引さ"は感じられなかったと思うが……。
皆目見当がつかない。
それどころか、自分の話なんかよりも、彼の話の方がよっぽど重要なのではないかと感じた。
しかし森川はキョトンとした葵の表情を見て何かを察したのだろうか。
「考え過ぎか」と答えながら姿勢を戻し、ハンドルへと手を伸ばした。
間も無くエンジンが掛かると、エアコンから噴き出した風が車内の熱気を攪拌し始める。
けれど葵は、森川の手がハンドブレーキに掛かる直前に、咄嗟にその腕を押さえていた。
「どうした?」
「どうして強引だなんて、思ったんですか!?」
先程、自分が話す前に車を停められていたせいだろう。
"考え過ぎか"という一言も重なり、車の発進が話の終わりだと感じてしまったのだ。
「…………」
驚いた表情のまま閉口した森川からすれば、葵の質問は唐突なものだったのかもしれないが……。
「私は私の意思で来てるんです。
正直に言えば、あの時に森川さんが来てくれるまで迷ってましたけど、森川さんから言って貰えたお陰で決心がついたようなものです。
別に無理もしていません。森川さんに会いたいから来たんです。
でも、さっきお話した通り気になっていた事もあって、だからもしも、それで誤解をさせてしまってたらごめんなさい……」
しかし、もしも葵が常識的な"既婚者"でありその自覚があれば、森川の"常識的な葛藤"の意味に気付けたかもしれない……。