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わが不滅の恋人 ―永遠に秘密の恋―
第2章 Ich liebe dich (我、汝を愛す)
「わかった」
フランツは再度目を閉じ歌い始め、ルートヴィヒも目を閉じた。誰でもすぐに口ずさめる、甘く優しい旋律。「優しき愛」の詩を知ったとき、ルートヴィヒの脳裏にはすぐにフランツの顔が浮かんだ。そのフランツへの想いを掬い取ってそっと旋律に乗せたのがこの歌だった。
カストラートとしての声量と技量、変声前のままの天使の声が室内を舞う。たとえそれが人為的に造り出されたものであっても、美しい物は確かに美しいのだと、ルートヴィヒは思った。
やがて最後の音の余韻が消え去り、ルートヴィヒのためだけのささやかな演奏会は幕が下りた。
「ありがとう」
「どういたしまして。すごく素敵な歌だよね。僕は好きだ」
「君のための歌だから」
作曲の経緯を語ると、フランツは色白の頬を赤くしてはにかんだ。
「嬉しいな。公演の際アンコールでこの歌を歌ってもいいかな」
「もちろん」
「ありがとう。辛いとき苦しいとき、君のこの歌が僕を支えてくれた。だからきっとこれからもこの歌は僕の生きる証だ」
「……辛いのか?」
フランツは青い瞳に思慮深い色を浮かべた。離れていたこの二十年のことはわからないが、色々辛い思いをしてきたのかもしれない。天使のような歌声には、少年時代にはなかった深い陰影が感じられるようになっていた。
「生きるって、そんなものだろう?」
「………そうかもしれないな。では僕はフランツの歌声を生きる証にしよう。僕の歌曲はすべて君に捧げる。君の声は僕の歌だ」
後年、聴力を失い絶望の淵に落ち込んだルートヴィヒを救ったのは、心にしまい込んだフランツの歌声だった。何度も何度もフランツの優しい顔と澄んだ歌声を思い返し、生きる縁(よすが)にしたのだ。
――フランツ、君は僕の不滅の恋人だ。
フランツは再度目を閉じ歌い始め、ルートヴィヒも目を閉じた。誰でもすぐに口ずさめる、甘く優しい旋律。「優しき愛」の詩を知ったとき、ルートヴィヒの脳裏にはすぐにフランツの顔が浮かんだ。そのフランツへの想いを掬い取ってそっと旋律に乗せたのがこの歌だった。
カストラートとしての声量と技量、変声前のままの天使の声が室内を舞う。たとえそれが人為的に造り出されたものであっても、美しい物は確かに美しいのだと、ルートヴィヒは思った。
やがて最後の音の余韻が消え去り、ルートヴィヒのためだけのささやかな演奏会は幕が下りた。
「ありがとう」
「どういたしまして。すごく素敵な歌だよね。僕は好きだ」
「君のための歌だから」
作曲の経緯を語ると、フランツは色白の頬を赤くしてはにかんだ。
「嬉しいな。公演の際アンコールでこの歌を歌ってもいいかな」
「もちろん」
「ありがとう。辛いとき苦しいとき、君のこの歌が僕を支えてくれた。だからきっとこれからもこの歌は僕の生きる証だ」
「……辛いのか?」
フランツは青い瞳に思慮深い色を浮かべた。離れていたこの二十年のことはわからないが、色々辛い思いをしてきたのかもしれない。天使のような歌声には、少年時代にはなかった深い陰影が感じられるようになっていた。
「生きるって、そんなものだろう?」
「………そうかもしれないな。では僕はフランツの歌声を生きる証にしよう。僕の歌曲はすべて君に捧げる。君の声は僕の歌だ」
後年、聴力を失い絶望の淵に落ち込んだルートヴィヒを救ったのは、心にしまい込んだフランツの歌声だった。何度も何度もフランツの優しい顔と澄んだ歌声を思い返し、生きる縁(よすが)にしたのだ。
――フランツ、君は僕の不滅の恋人だ。