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愛されたいから…
第18章 イルマの両親
そんな風にお袋だけを出掛けさせた親父だから俺は

多分、ガンマの仕事を早々に辞めろとかか…

と最悪のパターンを色々と考える。ため息をつき俺は

『父さんは?』

と崎さんに聞いてみる。崎さんはごく普通に

『お仕事部屋におられますよ。』

と答えてくれた。俺はそのまま南郷さんを連れて親父の仕事部屋に向かっていた。

一応、扉をノックしたが今日は全く反応が無い…。いつもならアシスタントの誰かがすぐに扉を開けてくれるのに、親父の仕事部屋の扉は全く静かなままだった。

俺は扉を開けながら

『父さん、居ないの?』

と聞いてみた。仕事部屋の一番奥の馬鹿デカイ机の前には、夕べとは違い、ボサボサ頭に無精髭、火が付いたタバコを咥えて不機嫌丸出しの親父が座っていた。

服装はヨレヨレのTシャツに短パン、その上からは年中親父が着ているドテラを羽織って、俳優並の二枚目が台無しになった親父が黙って俺に手招きだけする。

親父のその豹変ぶりには南郷さんが一瞬固まっているのが俺にはわかった。親父はとにかく他の物事には全く興味がない人だ。だからああいうパーティーなどに親父が出掛ける時は必ず全身お袋のコーディネートで出掛ける人だ。

だけどお袋が文句を言わないこの家の中では俳優のような親父が、ただの小汚い中年親父に変貌する。

親父の机の前には6人分のアシスタント用の机があるから俺と南郷さんはそこに座る事にした。

一応、南郷さんは編集長として

『お邪魔させて頂きます。』

と親父に礼儀正しく挨拶するが親父はやはり全く興味がないように振舞っていた。

南郷さんの元恋人である和也さんと出会った時に俺が感じていた恐怖は全てこの親父が原因だ。俺が和也さんに抱いた不安は和也さんがこの親父にそっくりだと感じるからこそ俺は怖くなっていた。

ただ、親父は普段は無口で優しいだけの親父だ。和也さんほどに激しい感情を剥き出しにする事はない…。だけど、無口故に親父は自分が発した言葉はほぼ絶対に貫き通すという人だ。

そういう部分では和也さんとは方法が違うだけで結果は同じだと俺には言える。だから緊張したまま俺は親父に向かって

『話しって?』

と切り出していた。親父はゆっくりと低く重い声で

『ちょっとその編集長さんにイッちゃんとの関係が聞きたくてね。』

と言い出した。
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