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秘密のピアノレッスン
第5章 不安
……もう、ピアノの時間だ。
まだ興奮がさめないままにワイン色のワンピースを着、グレーのショートコートを羽織って、レッスンに向かった。

昼夜の寒暖差が出てきて、日が暮れると冬の空気に変わるこの時期。
冷えた頬を押さえながら先生のマンションのエントランスに入った。一息ついて、インターホンを押そうとしていると、後ろからこのマンションの住人がキーで開けてくれた。

「……あ、すみません」
「いいえ」

犬の散歩帰りの女性が、かわいいチワワを抱いて会釈してくれた。

優しい人に出会った日は、愛が溢れて優しい気持ちになれる。
母といると、私はいずれ人間じゃなくなってしまう気がして、とても怖い。

パパはなぜ、帰ってこないのかな。
私とママに会いたくない?
私は、会えなくて寂しいよ。

もうすぐ18歳になるのに、子供みたいに寂しがって、ごめんなさい。

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