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記憶の彼方に眠る恋
第8章 記憶の彼方に眠る恋
 数ヶ月前、紗友莉が拓麻にキスをして想いを伝えたあの日、取り戻した記憶と引き換えに失ったはずの「記憶喪失の間の記憶」が甦ったのだった。
 二人が初めて愛を交わしたあの日の熱烈なキス―――二人がお互いとでしか成しえない激しいキスが、眠った記憶を呼び起こしたのだろう。
 少なくとも、紗友莉はそう思っていた。
 全ての記憶を取り戻したことにより、拓麻は今では、「事故までの記憶を失っている間」も変わらず、自分が紗友莉だけを愛し続けていたことを知っている。
 そのことが拓麻にとって何よりの誇りであるらしく、紗友莉に何度も何度も自慢げに言ってきたことが、紗友莉には印象に残った。
 紗友莉としては、嬉しくてたまらないので、そういう自慢ならどんどんしてほしいと思っていたが、そこまで言うのは恥ずかしいので口には出さずにおくことに。
 拓麻の解釈では、「記憶を失う前からずっと、紗友莉だけを愛し続けてきたので、その潜在意識が影響し、事故による記憶喪失後もずっと紗友莉だけを愛していたのだろう」ということだ。
 本当のところはどうなのか分からなかったが、紗友莉にとっては理由などどうでも良く、「今こうして拓麻と相思相愛なのが嬉しい」という気持ちでいっぱいだった。
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