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臥龍の珠
第3章 三顧の礼
 翌早朝、庵を出る珠と亮を、均は門前で見送った。生まれてからずっと共に暮らしてきた亮と離れ離れになるのは、やはり寂しい。亮は長身の均よりさらに高い位置から均を見下ろし告げた。そのもの柔らかな声音には、兄として均を案じる色が濃く感じられた。

「この庵はお前に譲る。今後瑾兄上を頼るか、私を頼るか、はたまた別の道をゆくのか。しばらくの間夫婦で田畑を耕しながら、自分で選びなさい」
「はい、兄上」

 均は近々林氏の娘を娶ることが決まっていた。劉備が初めて庵を訪ねた際亮に会えなかったのは、均の縁談をまとめるため外出していたからだ。均は自分自身兄ほどの才はないと自覚していたが、いずれは誰かに仕官することになる。誰を主と仰ぐか、兄は自分で決めろと言った。妻となる林氏と共に夫婦でじっくりと考え、道を選ぶつもりでいた。

「お気をつけて。お元気で、兄上」
「ありがとう。しばらくは落ち着かない日々が続くことになると思う。落ち着いたらこちらから手紙を出すから、連絡がなくても心配はしなくていい」
「心配はしません」

 均はかぶりを振り、くすりと笑った。

「だって兄上ですから」

 臥龍と称される亮に何かあろうはずはない。

「それは買い被りすぎというものだ。玄徳様に従う以上、直接戦に身を投じることも考えられる。戦というものは、何が起こるかわからないものだからね」
「はい。心します」
「うん。元気で」

 その後均は劉備に仕え、位は最終的に長水校尉まで上ったのだった。
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