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臥龍の珠
第4章 荊州争乱
 「天下三分の計」で、亮は劉備に荊州に益州を加えた地を本拠とするよう、劉備に勧めた。だが現状では劉備は荊州牧である劉表の客将でしかない。

「景升公(劉表)を弑し、まずは荊州を手に入れましょう。それが玄徳様のため、ひいては万民のためになるのです」

 亮は劉備に荊州簒奪を強く勧めた。軍事に疎い劉表の力では曹操の脅威に対抗することは不可能だ。華北を手中に収めた曹操が、次は荊州に狙いを定めることは必然。実力のある劉備が劉表に取って変わらなければ、荊州は曹操に奪われてしまう。だが、曹操にだけは、徐州で万をも越える人民の大虐殺を行った曹操にだけは、荊州を渡したくはなかった。

「景升公は流浪の身であった私を温かく迎え入れてくれたのだ。いわば恩人とも言える公を殺すのは、私にはできない」

 劉備が劉表暗殺を嫌がるだろうということは、亮も予想していた。恩人を殺すことなど、義に篤い劉備にできるはずがない。

「では、玄徳様の手勢のみで曹操に当たられるのですか?」
「そうだ。かなり厳しいがやるしかない」
「わかりました」

 人の良さは美徳であるが、天下に覇を唱えるには禍となることもある。いままで実力がありながらも劉備の軍が大した勢力にならなかったのは、劉備の人の良さのためだろう。亮もそれがわかっていて劉備に仕えることを決めたのだ。劉備にできないのであれば、亮はそれ以外の方法で荊州を手に入れることを考えなければならなかった。
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