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臥龍の珠
第4章 荊州争乱
 そんな中、荊州情勢を一変させかねない出来事が襄陽で起きた。

 病がちだった劉表が危篤に陥ったのだ。

 劉表には男子が二人いる。前妻の産んだ嫡男劉キ(王+奇)と後妻蔡夫人の産んだ劉ソウ(王+宗)だ。蔡夫人は荊州土着の有力者でもある重臣蔡瑁の妹であり、劉ソウを跡継ぎにと推す周囲の圧力は日増しに高まっていた。命の危機を感じた劉キは亮の助言を受け、江夏の地に太守として赴任していた。襄陽から離れていれば、劉ソウ一派も手を出しづらい。

「臥龍先生!」

 父危篤の報せを受け、江夏から劉キが襄陽に駆けつけた。何とか臨終には間に合ったものの、劉ソウ側の妨害に遭い城内に入ることができない。困り果てた劉キは、再度亮に助言を求めた。

「どうしたら父に会えるでしょうか」

 父に会いたい一心で頼った亮の答えは、だが意外なものだった。

「子としてお辛いでしょうが、ここは堪えて今すぐ江夏にお戻りください」
「なぜ……」

 はるばる江夏から戻ったのは無駄足だったということか。

「景升公が亡くなれば、今度は逆に襄陽にあなたを閉じ込めようとするでしょう。そうなればあなたのお命が危ない。江夏へ戻り、しばし世の趨勢を見極めるのです」
「ですが……」
「たとえ会うことはできずとも、あなたは遠く江夏から襄陽まで駆けつけた。そのお心はお父上にもきっと届いているはずです」
「はい……」

 父を想い、不甲斐ない自分自身を顧みて劉キは泣いた。

 劉表が亡くなったのは劉キが江夏へ出立した数日後のことだった。
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