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蜜会
第2章 湧き出す
 私の部屋はよくある独身用の1DKの間取りで、かろうじてバス・トイレは別なくらいの広さだけど家賃に水道代とネット代が入っているし、おまけにオール電化なのであれこれ料金を支払う煩わしさもなくて助かっている。

 隣の駅前だと有名な私立大学があるせいで騒がしいけど、このあたりは閑静な住宅街で両隣もサラリーマンのおじさんだから騒音に悩むこともない。

 ここから職場へは自転車で十分くらいだし、車を買わなくても全く不便がないくらい周囲にスーパーやドラッグストアもあって繁忙期も仕事に専念できる。

 ベッドとテレビとローテーブル、それにクッションが二つだけのシンプルな部屋は荷物をぜんぶ大きめのクローゼットに入れてあるので床には殆ど物がなく、あまり女性らしくなく殺風景に近いけどかわりに掃除もしやすくて今のレイアウトは気に入っている。

 繁忙期以外はだいたい十九時ごろに帰ってきて、冷凍しておいたご飯やおかずを温めて食べたらあとはテレビを見たり雑誌を読んで過ごす。

 この部屋に入れたことがある男は父くらいだ。

 祐一も、部屋に来たそうな雰囲気はいつも出していたけど平日の夜なんか部屋が汚れているから呼んでもいない。

 規模は「市」でも、この辺はこじんまりとしている。

 近所の噂にもなりたくないから職場の同僚なんかももちろん呼んだことがない。

 そんなことを思い出すと、あの「将来を」まで思い出してしまったけど、振り払って私は二人ぶんのコーヒーをインスタントではなくコーヒーメーカーで淹れた。

 普段は予備にしていたモノトーンのマグカップに注いで出すと安宅さんは嬉しそうにブラックのままふぅふぅ言って飲んだ。


「うん、うまい!」

「ただのコーヒーですってば」

「いやあ、可愛い子が出してくれるコーヒーはごちそうだよ」


 また、「可愛い」って。

 お世辞だろうに、言われるたびになぜか嬉しくなってしまう私の後ろで、うちのカミさんは飲みたきゃ自分で淹れろって言うしなぁと安宅さんは笑っていた。
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