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籠鳥 ~溺愛~
第1章
月給は――と鏡哉が電卓を弾いて出した金額は、大卒の新入社員が貰える額を遥かに超えて良いものだった。
「ええっ! そんな、そんなにもらえません! っていうか、私なんかきっとお役に立てないですよ。私、料理は和食ばかりで、新堂さんみたいに凝った料理作れませんし!」
「和食? 私は和食は作らないんだ。だから君ができるならちょうどいい」
鏡哉は有無を言わさぬようにそう言い切ると、立ち上がって電話を取りに行った。
戻ってきた鏡哉は放心したように座っている美冬の前の絨毯に跪くと、そっと両の掌を取った。
鏡哉の温かい体温が指を通して伝わってくる。
「君はもっと自分のことを大事にすべきだ。大学に行きたいからと言ってバイトばかりしていては勉強はおろそかになるし、まず何よりも君の体がまいってしまう」
「で……でも――」
「でもじゃない。ちゃんとよく考えて。君はこのままで本当に念願の大学に行けると思っているのか?」
鏡哉の真摯な瞳が美冬の胸を突く。
確かにバイトばかりで中学のころは主席をキープしていた成績は格段に下がった。
またバイトに明け暮れていると、本当は何のために頑張っているのか自分でも分からなくなってきた。
ただその日を懸命に生きるだけで、それだけに疲れ果てせっかくの学校の授業中に居眠りをしてしまう。
(学びたい、本当に私、色んなこと学びたいのに――!)
思わず縋るように鏡哉の掌を握っていた。
「決まりだな。いいね?」
顔を上げると鏡哉が小さく微笑んでいた。
初めて見る鏡哉の微笑み。
その微笑みに促されるように、美冬はこくりと頷いていた。
「じゃあ、バイト先に電話しようか。携帯持ってるか?」
美冬は首を振る。
鏡哉から手渡された電話の子機で、一年間お世話になったバイト先にそれぞれ平謝りで辞める旨電話をかけた。
今起こったことが信じられないといった様子の美冬だったが、数分後、すくっと立ち上がった。
「で、では私、さっそく仕事をして――」
そう言い終わらぬうちに美冬は鏡哉に抱きかかえられていた。
「バカなことを言うな。今日はもう寝なさい。まだ顔色が青白い」
「いえ、そんなわけには! 貴方は、新堂さんはもう私の雇い主です!」
美冬は鏡哉の腕の中でそう言い募る。