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籠鳥 ~溺愛~
第34章
「今が嫌なら取り敢えず婚約して、美冬がいいと思える年齢で結婚しよう」
「こ、婚約っ!?」
すっ飛んだ声を発した美冬に、鏡哉は優しく微笑む。
「婚約して一緒に過ごして……それでも美冬が『違う』と思ったら、婚約解消するから」
そう言って美冬の頭から手をのけた鏡哉の顔は少し淋しそうだった。
(ちがう、こんな顔をさせたい訳じゃないのに! で、でも……私なんか――)
眉根を寄せて美冬は困り果て、無意識のうちに心の声を呟いていた。
「私なんか――」
「美冬!」
言いかけた美冬を鏡哉が厳しい口調で遮る。
「金輪際、私なんかなんて言うな。私が愛している美冬のことを自分自身で貶(おとし)めるな」
鏡哉のその叱責に、美冬は体を強張らせる。
しかし自分が怒られた理由をすぐに感じ取った美冬の頬は徐々に緩み、言いようのない幸福感で満たされる。
(鏡哉さんは私のことを思って怒ってくれているんだ……)
くすり。
目の前の鏡哉から笑みが零れる。
不思議に思って彼を見ると、鏡哉は懐かしそうに眼鏡の奥の瞳を細めた。
「いや、変わらないなと思って……初めて会った日、言ってただろう? 『周りの人に怒られたり注意されたりすると、嬉しくなって惚けちゃうんです』って」
「………」
まさかそんな取るに足らない言葉を覚えてくれていたとは思わなかった美冬は、大きな瞳を見張る。
「鏡哉さん……」
「愛してるよ、美冬」
鏡哉が美冬の頬をさする様に撫でる。
その端正な顔は溶ける様に幸せそうで――。
「愛してる」
その瞳は美冬を慈しむ愛に満ち溢れていて――。
「………」
(ずっと、こんな表情を見ていたい。
ずっと、その瞳で見つめてほしい。
ずっと――)
「美冬……」
暖かい鏡哉の体温が手のひらを通して伝わってくる。
(信じよう、この温もりを。
信じよう、彼の言葉を。
信じよう――)
自分の心を――。
「愛しています……鏡哉さん――」
美冬の小さな唇が震えながら愛の言葉を紡(つむ)ぐ。
頬に添えられた鏡哉の掌がピクリと震える。
「私も、愛している……」
美冬が小さく頷く。
長い黒髪がさらりと揺れる。
「私と、結婚してくれるね――?」