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籠鳥 ~溺愛~
第5章
近づかれるにつれ、美冬の鼓動がどくどくと加速する。
(ひ、ひゃ〜〜っ! お願い、これ以上近づかないで)
「美冬ちゃんの細くて綺麗な腕が筋肉ムキムキになったらいやだ」
白いセーラー服の袖の上からさわりと二の腕を触られ、美冬は手にしていたリンゴを床に落としてしまった。
鏡哉がリンゴを取ってくれる。
「ほ、ほら鏡哉さん、私忙しいですから、向こうに座っていてください」
「美冬ちゃんどうしたの? リンゴみたいに真っ赤」
腰を折るようにして顔を覗き込まれ、美冬の頬はさらに熱くなる。
「な、何でもないです」
「熱でもあるの?」
当たり前のように手を伸ばして額に触ろうとした鏡哉に、美冬は後ずさりをする。
「なんで逃げる?」
「に、逃げてなんか、ないですよ」
「いや、後ずさりしてるじゃないか」
「こ、これは――」
いくら広いキッチンとはいえ、後ずさりした美冬の背に冷蔵庫が当たる。
「なんか、逃げられると追い詰めたくなるんだよね」
(ひ、ひい!)
伸びてきた手に、美冬は思わず瞳をつぶる。
ひやりとした掌がおでこに当てられた。
「熱はないか。真っ赤だけど」
ちゅっと頬にキスが落とされる。
(ぎゃっ!?)
美冬は乙女らしくない叫び声を心の中で上げる。
それほどもう彼女はいっぱいいっぱいだった。
鏡哉の香水の香りが鼻孔をくすぐり、美冬は瞼を開いたその時、
「今度逃げたら、美冬ちゃんのファーストキス、奪っちゃうよ」
美冬の耳元でそう呟いた鏡哉は顔を離すと、彼女の目の前で意地悪そうに嗤いその場を去って行った。
一人取り残された美冬は、ずるずるとその場にへたり込んでしまう。
壊れそうなほどどきどきする心臓がうるさい。
「………っ」
(え、Sだ……鏡哉さん、絶対Sだ――!!)
今更知りたくなかった鏡哉の性癖を知らしめられ、美冬は盛大なため息をついた。