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籠鳥 ~溺愛~
第1章
我に返って部屋を見渡すが、窓から見える景色からはだいぶ高層のマンションであることくらいしかわからない。
美冬はベッドから勢いよく飛び出て窓辺に近寄ろうとしたが、床に足をついた途端、ぐらりとその場にしゃがみこんでしまった。
目が回る。貧血だろうとフカフカの絨毯の床に両手を付いて立ち上がろうとするが、うまくいかない。
「こら、無理をするな」
頭上からそう言葉が降ってきて、気が付くと暖かい腕に抱きあげられていた。
「まったく――こんなに痩せるまでバイトをさせる親って……」
少し呆れた様な言葉が頭の上で零される。
(違う――お父さんとお母さんは悪くない――)
丁寧にベッドに横にされた美冬は、遠のいていく意識の中、つぶやいた。
「……私、『ひとり』だから――」
「……私、『ひとり』だから――」
(ひとり――?)
かすれていたが美冬は確かにそう言った。
この年にありがちな家出少女だろうかと鏡哉は内心首を傾げたが、目に入った時計の時間を確認すると、美冬の上掛けを整えて部屋から出て会社へと向かった。
昨日の接待の代打への礼を秘書を通じて副社長にすると、目の前に積み上げられた未処理書類に目を通していく。
抜けられなかった商談を円滑に進めると、鏡哉は秘書を呼び止めた。
「悪いが今日はもう帰る」
秘書は腕時計と手帳に目を通すと、珍しいものを見るような目で顔を上げた。
「今日は特に予定はないので構いませんが……珍しいですね、社長が15時に帰られるなんて」
「ああ、拾った子猫の調子が悪くてな――」
「子猫……ですか?」
鏡哉の返事にいつも鏡哉に負けず劣らず冷静な秘書が、ぽかんとした顔で聞き返してくる。
「なんだ?」
「いえ、社長と子猫があまりにも結び付かなくて――、あ、失礼」
対して失礼とも思っていない笑顔で、秘書が呟く。
「ふん。じゃあな」
「あ、社長」
「なんだ?」
振り返った鏡哉の鼻先に秘書が紙袋を突き出す。
「これ、今『女性に大人気の』スイーツらしいのです。先ほどお見えになった溝口様から頂まして。宜しければ一つお持ちください」
『女性に大人気の』というところを強調して手渡してきた秘書は意味ありげに笑う。
「だから『子猫』だと言っている」