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籠鳥 ~溺愛~
第1章
「はいはい。もしなんなら明日も午後に出社していただければ、午前休でも大丈夫ですから」
そうにっこりほほ笑んだ秘書は、何か言い返そうとした鏡哉に深々とお辞儀をしてお見送りをした。
車で30分程の自宅に辿り着くと、ゆっくりと厳かに開閉するエレベータにも少々苛立ちながら、高層の部屋へと向かう。
(何を焦っているんだ、私は――)
丈の長い絨毯敷きの照明が絞られたシックな廊下を足早に歩き、自室のカギをかざす。
中はしんとしていた。
鞄をリビングのソファーに放って、美冬を寝かせていた部屋にノックをしてはいる。
そこに今朝と変わらず眠っている美冬を見つけ、鏡哉はほっと息を付く。
ベッドサイドのテーブルには、『会社へ行ってくるから、無理をせずに寝ておきなさい』と書置きしておいたメモがそのまま残されている。
同じく置いておいたペットボトルのミネラルウォーターにも手を付けられていなかった。
こんなに死んだように眠る美冬に若干不安になり、額に手を添えるがそこは冷たすぎるくらいで、熱はなかった。
顔色も悪いままだ。
(もしかして貧血なのか……)
鏡哉は踵を返すと部屋から出て、電話でマンションのコンシェルジュに鉄剤と貧血に効きそうな食材の買いものを頼んだ。
いつもなら家政婦が食事のいるときは用意してくれていたのだが、今日は美冬がいるからと断っていたので自分で作るしかないだろう。
一時間後、食事を作り終えた鏡哉はもしかしたらと思って食事を盆に載せ、美冬の部屋に入った。
予想通り、美冬はまたくんくんと鼻を鳴らしてうっすら目を開いた。
その動作が思いのほか可愛く、自然と頬も緩む。
「起きたか? ほんと食いしん坊だな」
思いがけず楽しそうな声を出してしまった自分に鏡哉は内心驚きながらも、体を起こそうとする美冬に手を貸す。
「あ……私、また寝て……?」
「寝たというよりは倒れたんだ。無理に立ち上がろうとしたから」
倒れた時の状況を説明していやると、美冬はすまなさそうに眉尻を下げた。
「ご飯、食べられるか?」
膝掛の上に盆を載せてやると、元気のなかった美冬の表情が生き生きとする。