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籠鳥 ~溺愛~
第1章
鏡哉はそう言い募る自分が信じられなかった。
他人に対して興味を抱かず、いつも一線を引いて相手と付き合っていた自分が、こんなにも他人に対して感情を揺さぶられている。
「……えっと、新堂さん?」
美冬は睨みつけるように見つめてくる鏡哉に首を傾げて見せる。
「……すまない、怒鳴ったりして」
ぽかんとした表情の美冬は小さくかぶりを振る。
(何しているんだ私は――彼女にとって自分はただの他人なのに)
『他人』という言葉が予想以上に辛く感じる。
すっと視線を逸らして座りなおした鏡哉に、目の前の美冬は微笑んだ。
「……優しいんですね、新堂さんは――」
「うざいか――?」
純情そうな中学生に見えるが、美冬もれっきとした女子高生だ。
他人の男にそんな風に怒鳴られて、きっとそう思っているに違いない。
「うざい? とんでもないです。ふふ、うれしくって――」
「嬉しい?」
「はい。私、周りの人に怒られたり注意されたりすると、嬉しくなって惚けちゃうんです。『ああ、この人、私のためを思って怒ってくれているんだなあ』って!」
美冬はそういうとなおさら嬉しそうに微笑む。
その笑顔につられて、鏡哉も頬のこわばりを解く。
「まったく……君は不思議な子だな」
「そうですか?」
「ああ」
鏡哉はそう言うと、鉄剤の瓶から数錠取り出し美冬に飲ませた。
白い喉がこくりと錠剤を嚥下する。
その時、鏡哉は胸を突き動かされた。
(駄目だ、この子を、美冬を離したくない――)
何故だか分からない。
こんな年端もいかない子供を、この部屋から世間の荒波へ放り出したくなかった。
今離れたら二度と会えない、そんなわけないと思うのだが、ただ強くそんな気がした。
「……くさい」
「へ?」
「美冬ちゃん、君ちょっと匂うよ」
鏡哉は立ち上がって真面目な顔でそう言う。
いきなりの話の展開に付いていけていない美冬だったが、やがてくんくんと自分の制服を匂いだす。
「え〜、そうですかね? すみません、今すぐ帰りますから!」
美冬は焦って立ち上がろうとするが、鏡哉は大きなテーブルを回り込んで美冬の傍へ寄ると、美冬をさっと抱き上げた。
「え? えっ? 新堂さん?」