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婚約者の帰還(くすくす姫後日談・その1)
第1章 婚約者の帰還
「…あ!来たっ!」

朝から城の入り口でそわそわしていたスグリ姫は、近づいてくる人影を見つけて、素早く物陰に隠れました。
髪が乱れていないか、服がどこかめくれたりしていないか確かめて、もう一度そおっと覗いてみます。

「…うふふっ」
確かに見えた人影に、姫の口から思わず笑いがこぼれました。
(ほんとに、帰って来たぁ…!どうしようどうしようー!)
どうしようもこうしようも、ありません。
今日帰る、ということは、本人よりも一足早く知らせがあって、昨夜から分かっていたことです。
それを聞いたスグリ姫は迎えに行くと言い張って、侍女のバンシルに止められました。


「馬鹿ですか。本人でさえ帰って来れずに、人を頼んだ距離ですよ。姫様が行ったって着ける訳無いですよ」
「…それは…そうかもだけど…」
当然の反対を受けたスグリ姫は、ぶつぶつ文句を言いました。
「早くお会いになりたい気持ちは分かりますけど、そんなこと考えるくらいなら、早くお休みになってくださいな」
バンシルはそう言うと、明日帰ってくる婚約者のように、眉をひそめて姫を見ました。

「姫様、最近寝れてませんからね。明日の朝、クマが出来てても知りませんよ」
それを聞いたスグリ姫は、うげっと姫らしくない声をあげました。
「寝る!今すぐ寝ます!!」
「そうなさって下さい。そうして明日きちんと起きて、朝御飯もちゃんと召し上がるんですよ」
最近食べないから血色悪いですよと言われた姫は、両手で頬を押さえました。
「ちゃんと起きて、ちゃんと食べます!」
「それがよろしゅうございます。早起きされたら、その分たっぷりおめかしする時間が取れますし」
「うん」
ありがとうバンシル、とスグリ姫は頬を染めました。

「あの下ろし立てのお召し物を、着られるように出しておきますね。さ、あとはゆっくり寝てください」
「寝れるかしら。待ち遠しくてそわそわしちゃう」
「寝てください。起きてても時間は早く進みません。」
はぁい、と寝支度を始めた姫を見て、バンシルは苦笑しました。

「…でもまあ、もうすぐ十日ですものね。浮かれるのも、仕方ないですね。」
そのあとバンシルが言った言葉に、寝床に入ったスグリ姫は、くすくす笑いを漏らしました。
「明日の昼前には着くってのに、大枚叩いてわざわざ先に知らせを遣すってのも、相当ですよ。浮かれっぷりでは、良い勝負ですね。」
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