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陽向の恋
第6章 六

 ありがとう花菜。大好き、花菜。

「今度ランチ奢る……」

 畳の上で四つん這いになった格好で、ぶつぶつと呟く。急にドアがコンコンと軽くノックされて、ビクッとしたが。

「……」

 陽向だ。多分。怒って鬼みたいになった陽向が、ドアの前に……。

「はい……」

 畳に座り込みながら、緊張しつつ返事をする。それからすぐにドアが開いて、何者かに飛び付かれた。

「苗ちゃん!」

 その声と体温の懐かしさに、私は何故かほっとしてしまった。ドアががら空きだということに気付いて、焦りながら閉めたが。

「ドア!ドア!」

「苗ちゃん、寂しかったよぉぉぉ……何で課長と回ってんのぉぉぉ……温泉とか一緒に入ってないよねぇぇぇ……」

 四つん這いで歩き、ドアを閉める。そんな私の足にしがみつきながら、怨念の様に低音で話す陽向。

「一緒に入るわけないでしょ!離れて!」

「嫌だぁぁぁ……この裏切り者めぇぇぇ……」

「花菜もいて三人だったから!」

「それでも……俺が、苗ちゃんと回りたかった」

 低音ボイスではなくなり普通の陽向の声に戻るも、落ち込んだように話されて私はうっと胸が痛くなる。……悪かった。けど、社内旅行だし。一緒に回るわけには……。

「貸し切り風呂入ろう……」

「無理!絶対無理!」

「じゃあ、俺が風俗言っても良いの?」

「ダメに決まってるじゃん!」

 太腿にしがみつかれたまま陽向の突拍子もない言葉を聞いて、ドキッとした。……急に何で風俗って……。





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