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王家の婚礼(くすくす姫後日談・その2)
第1章 婚礼前夜
「姫様、そろそろお休みにならないと。」

風がひんやりとする日が増え、秋めいてきたある夜のことです。

バンシルに溜息を吐かれたスグリ姫は、寝台の上に横になっておりました。
横になってはいましたが、上を向いても横を向いても居りませんでした。
どういう格好をしているかというと、布団の上でうつ伏せになり、枕を抱えて、一人で悶えておりました。

「姫様。いい加減にしないと、明日に差し支えますよ。そろそろきちんと寝てください。」
「バンシルぅううう…!寝れない!!寝れないっ!寝れる訳ないぃぃぃ!!」
スグリ姫は今度は枕を抱えたままで上向きに向き直り、ひっくり返った虫のように、脚をばたばたさせました。

「バンシルも見た?!見たでしょ!?見たのに、なんで平気なの!?」
「あーはいはいもういい加減に寝ましょうね」
バンシルは無表情に言いながら、無理矢理布団をめくって姫に被せようとしました。

「無理無理無理!…かっこよすぎて、寝られないぃぃい…!!」
姫はそういうとバンシルの被せた布団をかなぐり捨てて起き上がり、また悶絶して、枕の上に崩れ落ちました。

「なんで…なんであんなに、正装が似合うのぉおっっっ…」

明日は王室にとって、特別な日です。
そして今日は、特別な日の前に行われる特別な晩餐会があり、サクナはハンダマの手配によって、今まで姫さえ見たことの無い、きちんとした服を身につけておりました。
各々が明日の準備でバタバタしていたために、日中に会う時間が取れなかった上、晩餐の席も離れておりました。今日は、慣例で、男女が離れて座るということが決まっていたのです。そのため、スグリ姫は今日一日婚約者と碌に話もできず、ただただ姿を見詰めては、一人ぽーっとなっておりました。

「まあ、気持ちは分からないでもないですよ。」
「…分かる?!分かるわよね!!でも、分かっちゃダメっ!サクナがかっこいいなんて、私以外は分かっちゃダメっ!」
矛盾したことを平気で言ってまた悶える姫に、バンシルは呆れました。

「何言ってんですか、姫様。本気で頭大丈夫ですか。サクナがどうとか一言も言ってませんよ。一般論です、一般論。ガタイが良い人間の方が着こなせますもんね、ああいう服は…って言ってんですよ」
「…バンシルっ!?」
「はい。何ですか?」
「まさか…っ、」

姫は真顔で呟いて、唾をごくりと飲み込みました。
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