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遥かな友に
第1章 遥かな友に
 記念すべき第五十回大江戸グリークラブ定期演奏会。

 プログラム最後の曲を歌い終えた団員たちは、会場を埋めた聴衆から盛大な拍手を浴びていた。そんな中、客席を見つめたままこっそりと小声で隣と話をしている団員がいた。

「あいつ来てたな」
「うん、来てたね」

 あいつ、とは一昨年まで一緒に歌っていた仲間のことだ。長い間持病をコントロールしながら歌い続けてきたが、ついに病が進行して失明し、退団した。今回退団後初めて演奏会のチケットを送ったのだが、会場の片隅にひっそりと長年連れ添った奥さんと並んで座っている姿がステージの上から見えた。

 指揮者がいったん下がり、鳴りやまない拍手に応えて再びステージに登場するとアンコールだ。

 曲は「遥かな友に」。

 某大学グリークラブの合宿で即興的に作曲されたという名曲だ。グリーで歌う者でこの歌を歌ったことのない人間はいないだろう。

 ここで指揮者が、団員と一緒に歌おうと客席に向かって呼びかけた。
 呼びかけに応じた客がぞろぞろと、ステージに上がり始める。

 だがなぜか団長だけはその流れに逆らい、ステージから客席に降りた。
 団員たちが不思議に思って見つめる中、団長は白杖を手に座っていたかつての仲間に声をかけた。
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