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アムネシアは蜜愛に花開く
第1章 プロローグ

「巽は誰かと花火大会に行かないの? あんたなら相手に不自由しないでしょう?」

 久しぶりの会話が出来たわたしは、饒舌に語りかける。

 鏡の中で顔を俯かせた巽の姿が、机の上の細い花瓶の中で頭を垂らしている、一輪挿しの薔薇の花を彷彿させた。

 一見、薄茶色の外側が枯れたように儚く思えるのに、内側には若さに溢れる薄紅色に覆われ、必死に生きていることを主張しているような、そんなアムネシアに。

「……よ」
「うん?」

 顔を上げた巽は苦しそうな顔をして、歯軋りをしている。

 ぎりぎり、じりじり。

 それは蝉の音と混ざり、どの音が蝉のものなのかわからなくなった。

「いらねぇよ、お前に男なんて」

 爆ぜた巽が、わたしの腕を荒々しく鷲掴む。

「ちょっと、巽!?」
「姉貴ぶるんじゃねぇよ!!」

 そしてわたしは、ベッドに乱暴に放られてしまった。

「むかつくんだよ、俺の気も知らねぇで、お前!」

 整えたばかりの浴衣の襟ぐりが、巽の両手で大きく左右に広げられる。

「ちょっ!!」
「どうにもなんねぇなら、壊してやる……っ」

 巽が開いた襟から手を入れて荒々しく胸を揉みしだきながら、反対の手で帯を解いた。焦るわたしの唇に噛みつくような性急なキスをして、逃げるわたしの舌を絡め取り、口の中を圧倒的な存在感で蹂躙する。

 そしてわたしの足を割るように身体を入れた巽が、カチャカチャと音をたててベルトを外した。

「巽、なにを……」

 ぎらついた目が、抑えきれない彼の怒りが、彼の破壊衝動が、わたしに向かって迸る。

 いつも避けられていた、彼の瞳がわたしだけに向けられていた。

「俺だって、男なんだよ!!」
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