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乱火 ―本能寺燃ゆ―
第1章 乱火 ―本能寺燃ゆ―
 夜の深まった薄暗い室内に雨の音だけが響く。雨は鼓のように屋根を激しく打ち鳴らしていた。梅雨という季節柄当然ではあるが、こうも雨ばかりでは心が塞いで仕方がない。

 天正十年(1582年)六月一日、本能寺。小姓をつとめる森乱は主君である織田信長の求めに応じ、寝所に侍った。微かな灯りに照らされた室内の設えなど寺院としては破格に豪奢で、安土の城にも決して引けを取っていない。

 昨日五月二十九日、信長は御小姓衆らわずかな供回りを連れ、四条西洞院にある本能寺に入った。上洛はおよそ一年振りになる。毛利を攻める羽柴秀吉からの要請で備中へ向かう途上であり、本能寺で本隊の集結を待つ予定だった。広大な敷地を持つ本能寺は寺院でありながらも周囲に石垣や堀を有する堅牢な造りで、滞在場所としてうってつけだったのだ。

 森乱、すなわち姓は森で名は乱。ただし乱は幼名で、諱(いみな)は成利(なりとし)という。だが前髪を残した姿形のせいか、見目麗しい容姿のせいか、誰も成利とは呼ばない。信長を含め皆、乱という幼名のまま呼んでいた。

 また乱は小姓というお役目とは別に、若くして美濃金山五万石を領有する城主でもあった。亡父可成(よしなり)の家督を継いでいた兄、長可(ながよし)が信濃川中島二十万石に転封されたのを受けたためだ。だが信長の傍近くに仕える乱は城主としての務めを果たすことはできない。そのため長可の配下である家老、各務元正が金山城代を務めていた。

 乱はちらりと奥の襖に目を向けたが、すぐに視線を逸らした。襖を隔てた次の間には不寝番の小姓が控えている。寝所に呼ばれるようになった当初は同輩の小姓に信長との睦事の一部始終を聞かれることが非常に気になった。だが寵を受け始めて既に五年。不寝番の事など今では気にも止めない。何故なら彼らは信長に危害が及ばない限り、襖の向こうで何が行われようと一切関知してはならないからだ。要は小姓の形をした大きな人形が置いてあるとでも思えば良いのだった。
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