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乱火 ―本能寺燃ゆ―
第1章 乱火 ―本能寺燃ゆ―
「乱、参れ」

 乱を枕元に呼び寄せた信長は、躊躇うことなく着ていた夜着を脱ぎ去った。白い夜着は蝶のようにふわりと床に羽を広げる。同様に乱の夜着も無造作に放ると、二匹の白い蝶はまぐわうような姿で床に折り重なった。

「相も変わらず前髪立ちがよく似合っておるな。さても美しき躰であることよ」

 信長は切れ長の瞳を眇め乱のすらりとした肢体に当てた。頭の先から爪先まで鋭い視線で検分するように眺める。その苛烈とも言える強く熱い眼差しに、乱の内側から情念という名の焔がゆらゆらと立ち上る。視線だけで人を射殺せそうな強さに、どうしようもなく乱は焦がれた。妻帯はいまだ許されていないが、妻帯したいとも思わない。ただ信長と共にあることだけが乱の望みだった。

 信長の武骨な手が乱に触れた。そのままあちこち撫で擦る。十八になったとはいえ乱の躰つきは未だ少年の域を完全に脱してはいない。若い肢体は弾力に富み、肌理細やかな肌はまるで少女のようだった。

「ふ。女子も裸足で逃げ出す形(なり)をしていながら、股についているものは立派な男子であるか」

 信長は仰向けに伏す乱に跨がり、若いへのこを弄んだ。戦と同じく百戦錬磨のその指捌きに、乱の男子たる証は天井を差してそそり起つ。

「信長、様……」

 信長の名を呼ぶ声が艶を帯びた。見つめられるたび、名を呼ばれるたび、指が触れるたび、熱き焔が乱の心を掻き乱す。心が乱れるにつれ、躰も乱れてよがり狂う。ほどかれた長いまっすぐな黒髪が褥の上で乱れ咲いた。
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