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降っても照っても曇っても(くすくす姫後日談・その4.5)
第3章 降っても、照っても、曇っても
それを聞いた姫は、体中がふわっと温かくなりました。
「…ありがとう、すごく嬉しい…けど、」
「けど?」
「もう、充分大事にされてるわよ…」
今日一日だけでも、月のものが来たことを大袈裟に労わられ、無理はするなと言われ、眠くなったら寝かせて貰い、怪我の手当てをして貰い、特別に美味しいものを作って貰って運んで貰って、嫁入りに備えて人を雇うと言われたのです。
抱かれて溶けそうになることはよくありましたが、こんな風に甘やかされていては、普段も溶けてしまうのではないかと心配になる程でした。

「あ?どこが充分なんだ?」
サクナは姫の呟きに、真顔で答えました。
「充分なもんか。全然足りてねぇと思うぞ。遠慮しねぇで何でも言え、どんどん甘えろ」
(足りてないって事は絶対無いけど、甘やかされすぎって事は、あるかもだわね…)
姫は心の中で気をつけなくちゃと思いましたが、サクナに甘やかし過ぎないようにと反論しても無駄ということは目に見えていたので、話題を変えることにしました。

「ねえ。さっきの『降っても照っても曇っても』って、南の諺?」
「ああ、こっちでは言わねえのか?どんな時でも変わらずに、ってことだ」
サクナは姫の質問に少し考えて、果物作りは天気に左右されるから土地柄でそういう言い方が出来たのかもしれねぇな、と言いました。

「だから、降っても照っても曇っても、ヤれる時もヤれねぇ時も、お前を一番大事にするぞ」
「…その、『やれるときもやれないときも』も、諺?」
「そこは、今俺が作った。」
姫と婚約者は二人で顔を見合わせて、くすりと笑い合いました。

「降っても照っても曇っても、ここじゃなくって南に居ても、北に居ても東に居ても西に居ても、あなたのことが、大好きよ。」
姫はそう言うと愛しい果物馬鹿に口づけるために、腕の中で少しだけ背伸びをしたのでした。 
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