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第13章 柊屋敷の嫁御様

「これに、その指輪とお揃いのあの装飾品を着けるんですよね？」
「ええ！ぴったりでしょう？」
姫はいつもしている指輪を撫でて、はにかむように微笑みました。
「ええ、本当に…ちょうどいい色合いですね」
胸元には赤が入っておらず、裾に行くにつれて深い赤に変わって行くドレスには、金細工に赤い石が嵌った首飾りと揺れる足環は、さぞかし良く似合うだろうと思われました。
今、姫はそれらの装飾品も身に着けておりませんし、髪も整えておらず、化粧もしておりません。
それでもこれだけ輝くように美しいのだからお披露目の時にはどんなに綺麗になるだろう、とバンシルは主を誇らしく思い、主を掻っ攫うこの家の当主を、ちょっとだけ憎たらしく思いました。

「で、こっちは、バンシルのねっ！」
「…はい？」
姫様を泣かせたら百年呪う、と考えていたところに思いも寄らぬ事を朗らかに言われ、バンシルは面食らいました。

「このドレス、バンシルのなの！サイズ、合うと思うんだけど…良かったら、着てみて？えーと、着方はね…」
「姫様、ちょっとお待ち下さい。どうして私のドレスが」
「こういう色は、好みじゃない？」
「…それは、」
バンシルは、姫が広げて掲げているドレスを見ました。
姫のドレスとは逆に、胸元の濃い紺色から裾の象牙色にかけてがグラデーションになっています。胸元には刺繍や襞飾りではなく、光るビーズが散りばめられていました。姫より胸の膨らみが控えめなバンシルには、ビーズの輝きが嫌み無く似合いそうです。

「…素敵だとは、思いますが…」
バンシルが口籠もるのを気にも留めずに、姫は嬉しそうに手を叩きました。

「でしょう？バンシルは、夜空みたいなドレスが似合うと思って…！これね、サクナと私からの贈り物なの。御披露目の時は、支度はデイジー、控え室のお世話はマーガレット、会場でのお世話はヴァイオレットが担当してくれて、バンシルは三人のお目付け役と私の付き添いで、会場に居ることになるでしょう？それなら、ドレスを着て欲しいなあって思って」
姫はそこで言葉を切って、目を伏せました。