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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…スグリ…」
「はい?」
「…有り得無ぇ位、クッソ綺麗だ…」
「えっ!?」
スグリ姫は、目を丸くして婚約者を見て、ぽっと頬を染めました。
先程は慌てていて気付きませんでしたが、落ち着いてよく見ると、サクナは先代当主から譲られた正装に身を包んでおりました。
その様子は当主として申し分無く、素晴らしく立派……なのですが、美しさを増した盛装の姫を見詰め過ぎて、少々顔に締まりが無くなっている様でした。
感極まったらしいサクナは姫に釘付けになったまま、仕掛け人の侍女に呼び掛けました。

「…おい、デイジー」
「はい、旦那様」
「お前……天才かよっ…」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
デイジーは、サクナに膝を折って優雅にお辞儀を致しました。
「私の腕も有りましょうが、奥様が元々お持ちのお美しさのおかげだと思いますわ…」
デイジーはそう言うと、姫をうっとり見詰めました。

三人の新しい侍女達は、それぞれ一癖持っておりました。
デイジーには、人に罪の無い嘘話をしては反応を楽しむという悪癖が有りました。姫は面接の時からデイジーの話にころりと騙されて涙まで流し、採用されてからも度々たわいの無い嘘を信じては種明かしされるということを、繰り返しておりました。
スグリ姫のそのように素直な反応や、騙されても「え、嘘だったのー?!でも、すっごく面白かったっ!」と笑うだけでまた次の機会には本気でころっと騙されるという単純過ぎる性格や、とにかく姫の何もかもに、デイジーは心酔しておりました。そんなに姫が好きなら騙さなければいいのにとバンシルやサクナは思っておりましたが、デイジーにとってはそれとこれとは全く別物の様でした。
それでもデイジーは、普段は仕事の出来る働き者でしたし、髪を結ったり化粧を施したり服を選んだりといった姫を飾る腕については天才的でしたので、採用してみる事になったのです。

「…えっと…あのー…私の着ける、髪飾りは?」
二人がそれぞれに自分をじーっと見詰め続けているのに居たたまれなくなった姫は、とりあえず大事な用件について、尋ねてみる事に致しました。

「…あ。悪ぃ、見蕩れすぎた」
姫を穴の空くほど見ていたサクナは少し気まずそうな顔になり、正装の懐から艶々した金色の絹の小さな布包みを取り出しました。
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