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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…君は、この上なく素晴らしい伴侶を選んだ。それは私だけでなく、君の嫁取りを承認した者全員が目の当たりにした事だ。それでもまだ何かしら難癖を付けたがる者は居るかもしれないが、その内黙らざるを得なくなるだろう。クロウに出された二皿に、私達が有無を言わさず沈黙させられた様に」

姫は領主の言葉を聞いて、都でイチジクを食べたかとクロウに聞かれた事を思い出しました。
(あれは、口うるさい方々を、一口で黙らせる程の出来でした)
(貴女様がいらっしゃらなければ、出来なかった物です)
(サクナ様は貴女様の為に、最高の物をお作りになるでしょう)

(家業に取って益のある相手だと言う事、逆に反対をすれば不利益が有るかもしれない事を認めざるを得ない事が、誰の目にもはっきり分かったということね)
(当主を支える人間としては、文句無しの合格ですよ)

(お前に食わせたくて作った物だ。食ってみろ)
(遠慮せずに一番美味いものを食え。食ってりゃ体が自然に憶える。それがこの家の人間としてやって行く時に、お前を助けて、守ってくれる)

領主の言葉で思い出されたクロウの言葉が導火線か何かでも有ったかの様に、茶会の席で大奥様から言われた言葉や、ここに来てからサクナに言われたいくつもの言葉が、姫の中で火花の様に瞬いて、体を熱くさせました。
スグリ姫はクロウやサクナに前に聞かされた、この家の奥方として嫁ぐ為に必要な事のうち、一番もやもやとして分かりにくかったことが、やっと腑に落ちた気がしていました。
必要なのは、何か具体的な仕事をする事では、無かったのです。

(貴方にーーこの家の当主に嫁ぐと言う事は、貴方を愛して愛されて、貴方が愛されて愛している物を、私も愛して、愛される事)

それは、特別な事でも、難しい事でも有りませんでした。
今体を満たしている温かさを素直に受け取り、持ち続け、分け合って、返して行けば良いのです。
姫ははにかむように微笑んで、サクナの手をきゅっと握り直しました。
その指からはもう冷たさは消えていて、まるで自分の一部のように、同じくらい温かく感じられました。
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