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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「私、都に戻る前に一度で良いから、サクナのお部屋で眠ってみたいわ」
「あ?俺の部屋?」
「ええ。いつも、サクナが私のお部屋に来てるじゃない?そうじゃなくって、私がサクナのお部屋に行って、一緒に眠りたいの。いい?」
姫の頼みは、驚くほど細やかな事でした。そんな小さな望みなのに遠慮がちに口にした姫を、サクナはいじらしく思いました。
「…そんなんで、良いのか?」
「『そんなん』じゃないわ」
サクナが聞くと、姫は少しむっとした様でした。

「サクナは離れてる間でも、私のお部屋に入ったら、私が居る気がするでしょう?でも、私には、そういうの、無いんだもの」
姫はそう言うと、サクナの腕をぎゅっと抱き締めました。俯いているので、どんな顔をしているのかは、見えません。サクナはそっと姫の頭を撫でました。

「分かった。今日は俺の部屋に来い」
「ほんと?良いの?!」
姫は顔を上げて、サクナを見ました。その目の縁が少し赤くなっているのを見たサクナは、姫の頼みを何でも叶えてやりたくなりました。
「ああ。なんなら今日から帰る日まで、好きなだけ居ても良いぞ」
「ありがとう…!すっごく嬉しい!!」
「…お前は欲が無ぇなあ」
「へ?」
「もっと我が儘言って良いんだぞ。何か欲しいとか、どこか連れてってくれとか…そういう事言った事ねえだろ」
「あるわよ」
「有ったっけか?」
「言ったわよ?連れてって欲しい所は、サクナのお部屋よ。もう叶えて貰っちゃったじゃない」
姫は、自分が欲が無いのではなく、サクナが自分の願いを片っ端から叶えてくれているから願い事が無くなってしまうだけではないかと思いました。時には言う前に叶ってしまう事も有り、そういう時は願いを口にする事さえ無いのですから、お願い事が少なくなるのは当然です。
しかし、サクナはそれでは納得しない様でした。

「そういうのが欲が無えってんだよ。それ以外に何か無ぇのか」
「あるわよ」
「何だ?」
「それは、ちょっと…言っても叶わない事って分かってるから、言いにくいわ」
「遠慮すんな。何でも良いから言ってみろ」
促された姫は、言い難そうに言いました。
「…欲しいのはサクナで、すぐ行きたいのは、今度の春よ」
「お前」
「言わないで!分かってる!今叶わないのは分かってるし、欲張り過ぎって分かってるから!」
サクナが何か言い掛けたのを、姫は真っ赤になって遮りました。
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