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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「え、なあに?何か言った?」
「何でも無え。…もう粗方挨拶は終わったから、お前はご婦人方のお集まりの場所で歓談してろ」
「どうして?」
「どうしてって」
「お仕事?」
姫に聞かれたサクナは、咄嗟に返事が出来ませんでした。

(仕事の話なら、まだ良いんだが…男同士の社交って奴に、お前を連れて行きたくねぇんだよ)
紳士的な客であっても段々酒が回って来ると、女性に対してあまり上品とは言えない様なからかいを仕掛けて来る場合が御座います。ローゼルの様に慣れているか、バンシルの様に機転が利けば上手くいなして受け流せるでしょうが、今の姫にそれが出来るとは思えませんでした。今後の社交には、必要な事なのかもしれません。けれど、長く緊張を強いた今日、そこまでさせるのは酷だろうとサクナは思ったのです。早々に挨拶を済ませたのには、そういう意図も有りました。
そんな事情や思いなど、口に出さずに姫に通じる訳は有りません。正直に言えばきっと姫は、いずれやらなければいけない事ならやらせて欲しいと言うでしょう。しかし、サクナは、無理をさせたく有りませんでした。
返事に迷っているサクナの腕を捕まえて、姫は唇を尖らせました。

「邪魔じゃなければ、一緒に居たいわ。もうすぐ離れなきゃいけないんだもの。少しでも、傍に居たいの」
「…っ…」
「お願い。大人しくしてるから」
そう言うと、姫は抱き付いている腕をきゅっと抱き込みました。するとドレスに包まれた姫の胸に、サクナの腕は柔らかく埋まりました。その様子は、先日「おかず」を姫に強請られて致したあれこれの事を思い起こさせて、サクナは思わずくらっとしました。
「……ダメだ…しばらく、ご婦人だけのテーブルに行っててくれ…」
「…えー…」
「どうしても一人で行って終わらせなきゃならねえ、仕事…絡みの話や何かが有んだよ」
「お仕事…絡み…」
姫は唇を尖らせた上、頬っぺたまで膨らませて黙りました。仕事では、仕方がありません。
サクナはぷうっと膨れた頬っぺたに触れると、ぷにゅっと両手で潰しました。
「その代わり、会がお開きになったらずっと一緒に居てやるから、許せ」
「…分かったわ。それ以外にもう一つ、お願い事して良い?」
「もう一つ?何だ?」
サクナは、姫がまた何か挟みたい等と突拍子も無い事を言い出すのかと思いました。しかし姫が口にしたお願いは、意外だけれど単純な事でした。
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