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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「お返事する前に、これを受け取って欲しいの」
スグリ姫は、手に持った包みをサクナに差し出しました。

「…何だ?」
「開けてみて。本当は、都に戻る前の晩に、渡そうと思っていたのだけれど」
サクナは姫に言われるがままに、渡された包みを開けました。

「これは…」
「中に入っているのは、ハンダマからのお祝いよ。外の額は、私が作ったの」
包みの中から現れたのは、二人の名前が描かれた飾り文字が収められた、木製の額でした。

「ハンダマが私達の事を最初の頃きちんと祝福しなかった謝罪にって贈ってくれて、バンシルの実家で乳母のベラに遠くに嫁ぐ事についての相談をしながら、お兄さんに作り方を教わって、サクナの帰りを待ちながら城で少しずつ作り上げて、ここに来たあとアダンさんのお話を聞きながら、仕上げたの」
スグリ姫に渡されたその額は、二人が出会ってから今までの間に、時間を掛けて作られた物でした。姫の話を聞いた今眺めると、この額が半年足らずの間に起こった一つ一つの出来事を、思い出させてくれる様に思えました。

「…嬉しい事も、楽しい事も、驚くような事も、淋しい事も、今日みたいに怖い事も…いろいろな事が有ったけど、知らなかったら良かったって思う事は、無かったわ。起こらなかったら良かったって思う事は…無くは無いけど、でも、もしそれが起こらなかったら、今は今みたいには、なって無いと思うの」
姫はそこで一旦言葉を切って深呼吸して、先程言われた事についての返事と言える言葉を、口にしました。

「都に戻って不在になる間、これを、私の代わりに、ここに置いて下さい。そして春からは、私達二人が過ごす事になるお部屋に、飾らせて欲しいの」


姫の返事を耳にしたサクナは、胸を突かれて、思わず姫の顔を見上げました。
「…お前は、それで、良いのか…?」
「サクナ。いつ誰がどうなるかなんて、誰にも分からない事よ。もしかしたら起こるかもしれない先の事を怖がってあなたと離れてしまうより、私は今あなたと一緒に生きて居られている事を、出来るだけたくさん、喜びたいわ」
姫はサクナの足元にひざまずいて両手でサクナの手を握り、婚約者を見上げて、微笑みました。
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