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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第13章 柊屋敷の嫁御様
「…その『一つだけ』ってのがお前とお前がくれた物って事なら、俺はそれで手一杯だし、腹一杯だ」
「私も!私も、サクナだけで一杯だわ」
今度は姫がサクナの頬を両手で包み、右左と順に口づけました。それから窒息させない様に気を付けながら、サクナをきゅっと抱き締めました。

「…あ。でも」
「…ん?」
スグリ姫は自分のおでこをサクナのおでこにこつんと付けて、くすっと笑いながら言いました。

「私がサクナにあげる物も、サクナが私にくれる物も、これから、もっと増えるわよ?」
「ああ」
サクナは姫の唇にちゅっと短く口づけました。
「きっと、お墓に入り切らなくなるくらい…ずっと、たくさん」
「そうだな」
二人はにっこり微笑み合って、久し振りの深い口づけを交わしました。

「…抱いても、良いか?」
「うん…」
姫の返事を聞いたサクナは、姫の夜着をするりと肩から滑り落としました。そして、露わになった肩や胸に、愛おしそうに口づけました。スグリ姫はサクナの首に手を回し、甘い溜息を吐きました。

「…ん…なんだか、ビスカスさんに悪い気がするわ…」
「悪くなんか無ぇさ」
サクナは姫の口から他の男の名が出たことで僅かに眉を顰めましたが、姫にまた触れられた事で幸福感に溢れていたので、さっさと許して忘れてやって、姫を堪能することに決めました。

「あいつだって、治りゃあいくらでも好きなだけイイ事出来んだろ」
「…ふふっ…そうね…」
サクナは姫を抱き上げて、姫と交わした約束通り、自分の部屋の寝台に恭しく横たえました。

「サクナのお布団、すごく良い気持ち…大好き」
姫はサクナの首に回していた腕を解いて、掌で柔らかなシーツを撫でました。
「そうか?お前んとこのと変わらねぇぞ」
手を取られ掌に口づけられた姫は、指を伸ばしてサクナの頬を撫でました。
「だって、サクナのお布団は、サクナの匂いがするんだもの」
「じゃあ仕方ねぇな。俺がお前の寝床の方が良いってのと同じだ」
サクナはふざけて姫の首筋をくんくん犬の様に嗅いでみせ、姫が笑うとぺろりと舐めて口づけました。

「でも、一番好きなお布団は、これよ」
くふんと笑った姫はサクナを抱き締めて、猫の様に体を擦り寄せました。
「…同意見だな」
サクナは姫の背中を撫でて、長い口づけを落としました。

姫が婚約者の部屋で過ごす初めての夜は、甘く緩やかに深まって行きました。
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