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柊屋敷の嫁御様(くすくす姫後日談・その5)
第4章 花と果物
「本来だったら、女を馬鹿にすんのかと怒鳴り付けたいとこですが、」
バンシルはサクナだけでなく二切れ目のリンゴまで睨み付けてから口に入れましたが、食べているうちに思わず顔が緩みました。
そして、そのことにリンゴを食べ終えて飲み込んだ後に気がついて、むすっとした顔になりました。

「…単に姫様にめっろめろにベタ惚れで逃げられたら生きていけない男がびくびくしながら強がって吼えてるだけにしか聞こえないんで、失礼は許して差し上げますよ」
「ひっでぇなあ」
「どっちがですか。…でも、女を甘く見ない方が良いですよ。姫様は極上の果物かもしれませんが、手強い果物です。諦めて早めに負けとく事をお勧めします、どうせ負けるんですから」
サクナはバンシルの言葉を聞いて、とっくに負けてるし最初から今まで一回も勝った事なんざ無ぇと思いましたが、それは口には出しませんでした。

「お前、ほんっと恐ろしいな。ウチで働いて貰えねぇのは心底惜しいな」
「光栄ですけど、諦めてくださいな。家令様もお嫌でしょうし、それより何より、私に着いて来させる事を姫様が嫌がってますんで」
「クロウはともかくスグリの方は、お前ならその気になりゃあ何とでも丸め込めるだろうによ。お前も大概姫馬鹿だな」
「貴方様ほどじゃありませんよ。でも、姫馬鹿で果物馬鹿ですけど、馬鹿ではなさそうですね。安心しました」
「別に利口な訳でもねぇし、馬鹿だと思ってくれてて一向に構わねぇぞ?」
その方が都合が良い事も多いしな、と言いながら、サクナはリンゴを食べ終えた後始末をしました。

「分かってるだろうが、スグリに余計なこと言うなよ」
「言いませんよ。言っても誰も得しませんから」
バンシルの答えを聞いて、サクナは無言で肩をすくめました。

「あんたにゃ果物かもしれませんが、私にとって姫様は、生涯仕えると決めた花です。花には、綺麗に幸せに咲いてて欲しいですからね」
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