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第6章 敬語と命令

「それで、午後はクロウさんも来てくれたから、クロウさんからも昨日のお話を聞いて、しなきゃいけないことの計画をしたり…あと、他のいろんなお話も聞いたわ」
「いろんな話って何だ？」
あいつ余計な事言ってねぇだろうなと思いながら、サクナは姫の手を引いて、並んで寝台に腰掛けました。

「えーっと、今は冬だからそうでもないけど、他に何も食べられなくなるほど果物食べるのがお仕事な時期もあるとか…ここではお昼が一番大きい集まりの時間で、夜には宴会はしないとか…」
「ああ。試しに食わなきゃならねぇ物が山ほど出来る季節はあるな。宴会は、朝早ぇ仕事が多いし、夜だと灯りが要るから…それに、夜は他にすることが有る」
「他に、すること？」
「灯りがなくても出来ることだ」
「うーん？暗くっても出来ること？…こうやってお話は出来るわね？」
「そうだな」
「あと…」
サクナにもたれて座っていた姫は、ふふっと笑ってサクナにきゅっと抱き付きました。
「こうやって、仲良くも出来る？」
「どっちかってぇとそっちのが当たりだな」
サクナは姫のおでこと頬と唇に順番にちゅっと口づけた後、顔が見えない様に姫を抱き込んで、耳元で言いました。

「…今日、びっくりしたか？」
「え？」
「廊下で声掛けた時」
「…あ。怒らせるようなことして、ごめんなさい」
「いや…それはもう良い。お前、あん時ちゃんと謝っただろ」
「でも、すごく怒らせたから…あんなに怒った声、初めて聞いたもの」
「怖かったか？」
「…んー…」
「お前、びくっとしてただろ」

サクナは内心、姫を怖がらせてしまったのではないかと気にしていました。
出来れば一生、姫にあんなに冷たい態度で話すことは、したくなかったのですが。
怒った理由の一つは、姫が大人しく部屋に居なかった為に、会わせないようにした筈のローゼルと姫が鉢合わせしてしまった、という事でした。
そして、姫は気付いていませんが、理由はもう一つ有りました。姫がタンム卿に手を取られ頬を染めて話しているのを見て、思わずあんな風に言ってしまったのです。どちらかというとそちらの方が、大きな理由でありました。
実の所、バンシルが当て擦った通り、姫がこの地にがっかりしたり、家業に関連したことを嫌がったり、姫に見せていない自分を怖がったりして姫に愛想を尽かされるという事が、サクナが今一番恐れていることであったのです。