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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ

彼と出会ったのは、今から二年前のことだった。
その日、大学の同期の集まりで居酒屋で飲んでいた私は、二次会を断ってそそくさと店を出た。
お酒は得意ではなかったし、飲み会はそれなりに楽しかったが、それ以上でも以下でもなかった。私は妙に冷めたところがある。

駅までの道のり────道路の両脇が居酒屋でごった返した繁華街を歩いていたところ、道端にひとり、男の人がうずくまっているのが見えた。

吐いているんだな、と思った。男の足元には吐瀉物が広がっていた。

私は離れたところで足を止めて様子を窺っていた。そして、声をかけた。

「大丈夫ですか?」

ボランティア気質もなければ、ナイチンゲール精神もない。私は至って普通の、自分が一番大事で、面倒事に巻き込まれるのが嫌な人間である。

でも、何故かこのときは、彼────小野田 懐のことが気になってしょうがなかった。ほっとけなかった。心配になった。

水を与え、ビニール袋を渡した。彼はすいません、と、ありがとうございます、を交互に何度も口にした。

後日、お礼をさせてほしい、と言われて呼び出された。彼はハンカチをプレゼントしてくれた。

私のタオルが駄目になったのを、気にしていたらしい。

そこから、何度か会うようになった。彼は陽気で、底抜けの明るさを持ち合わせていた。人付き合いが希薄な私にとって、彼は栄養剤みたいなものだった。彼といる時間を素直に楽しめ、心から笑える時間が増えた。
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