この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
嫌がらせ
第1章 嫌がらせ

父の“嫌がらせ”を思い出した私は、父が指示する前に、自分の両手の親指をくっつけて、テーブルの上に置いた。
残り四本の指は、拳を作ってテーブルの下に隠すようにする。

「……準備はいいか?」

私は少し緊張気味に頷いた。

「うん」




────────────────

『あっ!? えー!! ヤダヤダっ!! 動けないよっ』

困り果てる私を見て、母と兄が爆笑する。

『助けてっ!』

『無理だ。これは嫌がらせだからな』

ビール片手に、ゲラゲラと笑いこける父を、私は涙目になって恨めしそうに見つめた。

────────────────


「……っ」

私はなるべく身体を揺らさないように、踏ん張るだけ。

テーブルに揃えて置かれた私の親指二本の上に、コップが置かれている。
コップにはたっぷり水が入っている。水をこぼさないようにするために、コップの土台となる親指の震えを極力抑えようと、私は全神経を指先に集中させる。

それは、傍から見れば滑稽な絵面だろう。

「……っ、くく」

「あ! 笑った! っていうかこれ、いつまでやってればいいの? 私」

「さあな」

「えぇっ!?」




母に生前、父のどこがよかったのかと聞いたことがあった。正反対の性格の二人がどう惹かれ合ったのか、子供ながらに私はとても興味があった。

────優しいところよ。

幼い私は、いつも渋い顔をしてむっつりと黙っている父のどこに“優しい”要素があるのか全く理解できなかった。



けれど今なら────



今なら、分かる。



「もう……やめてよお」

私は笑った。目に涙をたっぷりとためて。

いつかの家族四人の光景を思い出して
未熟だった自分を思い返して
父の優しさと愛情を身に染みて感じて────

「嫌がらせしないで、お父さん……っ」

「ははっ」

向かいに座る父の弾けた笑い声が聞こえる。





とても平和で、それでいて、とても微笑ましい────


父と娘の和やかな笑いが、賑わう寿司屋の中で、静かに響いていた────

                ────fin.
/16ページ
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ