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嫌がらせ
第1章 嫌がらせ

「だからお前の子宮を奪ったのは、俺のエゴだ」

「お父さんっ」

「お前に生きてて欲しかった」

「お父さんっ!」

私は身を乗り出し、父の肩を掴んだ。その肩が想像以上に薄く、私は息を呑んだ。父は、こんなにも痩せていただろうか。

「……ごめんな、千鶴」

父の頭がよく見えた。昔よりも髪が薄くなり、白髪も増えた。いつの間に、こんなに……?

「こんな、父親で、ごめんな……」

母は豪快でおしゃべり、兄は明るくてノリの良い性格だった。
一方、父は無口で我慢強く、私は大人しく静かだった。

そのため事故後、家の雰囲気は昔とは全く違うものになった。太陽が失われ、いつも夜明け前のような暗さが漂う。そんな鬱蒼とした環境の中────事故からたった二ヶ月後、父の転勤が決まった。

父は単身赴任で行くといい、あっと言う間に私の前から去ってしまった。
私は母方の祖母の家に預けられた。祖母の家は、実家の近所にあった。

私は、このとき何故か、とてもほっとしたのを覚えている。事故後、以前にも増して口を開かなくなった父に、どう接していいか分からなくなってしまったのだ。

そして父も、私と離れたいと思っているのでは、と勝手に思い込んでいた。なんとなく、そんな気がしたのだ。私といたところで、暗さに拍車がかかるだけだし、と。

これもまた、私の未熟でおかしな考え方だ。父は、私が転校せずに済むように、母方の祖母に頭を下げてくれていたのだ。その事実を、かなり後になって私は知った。
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